電子契約解禁で何が変わるの? 活用事例からひも解く本当のメリット

2021年06月23日

山本悠輔(全国賃貸住宅新聞)

 ファックス信仰、紙文化が業界スタンダードとして今も続く不動産市場だが、コロナ禍によりDX化が一歩進んだ。さらに、新しい法律の施行がさらなる業務のデジタル化を後押しする。5月12日に成立したデジタル関連改革法(以下:デジタル法)により、今まで書面で行っていた賃貸借契約や重要事項説明の交付が、オンラインで可能となる。ペーパーレスでの業務が普及すれば、印紙類のコスト削減、業務効率化が期待される。

 ようやく解禁される電子契約についての解説と、先行して業務のペーパレス化に取り組む管理会社を紹介する。

デジタル法施行までの1年間は 紙からデジタルへの移行期間

  デジタル法の成立により、宅地建物取引業法の第35条書面、37条書面が改正される。従来、重要事項説明、契約に関して貸主・借主(売買の場合は売主・買主)双方に書面での交付が義務付けられていた。今回の改正により、書面に代えて電磁的方法(デジタル交付)による提供が認められる。実際に電子契約の効力が認められるのは1年以内と言われており、それまでの期間が不動産会社にとって、業務を移行する時間となりそうだ。

 借主・貸主双方に電子交付する方法には2つの種類がある。「立会型」と「当事者型」と呼ばれるものだ。効力は同じだが、それぞれにメリット・デメリットがあるため、不動産会社は双方に関する知識を身に付ける必要がある。

「立会型」「当事者型」どちらを選べばいいの?

 「立会型」は、契約を交わす両者と別の第三者が、電子署名を発行し双方に送付する。契約者は電子署名を作成する手続きをする必要がなく、手間もコストも不要だ。その反面、「本人が契約を行った」という事実の確認が必要だ。何故なら、契約にあたる当事者の本人確認を、署名を発行する第三者にゆだねることになるからだ。なりすまし被害などのリスクがないとは言い切れない。

 「当事者型」は、本人確認や証明書を管理する公的機関の電子認証局が、電子証明書を発行する。厳重な本人確認が必要となるため、なりすましなどのリスクは最小限に抑えることができる。ただし、発行にかかる費用が大きいことや有効期限があるため、立会型に比べて契約者が費用や手間の負担を被らなければならない。

 電子署名を実用する場合は、どちらかを選択する形となる。双方の特徴を把握し、尚且つどういった用途で電子署名を活用するかによって、「立会型」「当事者型」を判断する必要があるだろう。

更新契約で先行利用 年間件数の3割を電子で実施

  熊本県を中心に1万7000戸を管理するコスギ不動産(熊本市)では、入居更新時に電子契約を使う。電子契約に対する抵抗がない人に限っており、基本的には50代以下のオーナーに提案する。

 当初は、更新手数料や火災保険料など、更新に付随する料金の徴収漏れを懸念するオーナーが少なくなかった。電子契約に対する信用を獲得するため、決済代行サービスを導入し、料金の取りこぼしを防止した。現在は、1年で行う更新契約の3割にあたる約1300件を電子で行う。担当者は「更新手続きに関して、集金まで含め短期間で業務が完了できている」と効果を実感する。

HPでシステム連動 覚書を自動で通知

 ユーミーらいふグループ(神奈川県藤沢市)は、電子契約システムを自社サイトと連携させ、業務効率化に繋げる。更新契約を行う場合、入居者は同社のホームページに設置された申込フォームから入力する。入力が完了すると、更新の覚書がメールでオーナーに送付される仕組みだ。オーナーと入居者の書面の受け渡しなど、管理会社が引き受けてきた受け渡し業務が、約6割削減されたという。記入漏れ、書類不備による再提出の連絡もなくなり、更新業務に要する時間は大幅に短縮された。廣瀬一寛取締役は「紙から電子に移行する期間は、両方の業務が必要となり、実際には業務が増えてしまう。だが、電子契約を活用すれば、様々な業務を削減できる」と話した。


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