【解説記事】いや結局、電子契約で楽になるの? 法改正による電子契約導入後の賃貸業務をビフォー&アフターで解説

2022年03月25日

山本悠輔(全国賃貸住宅新聞)

 2022年5月、いよいよ賃貸借契約における電子契約が解禁です。電子化への取り組みを進める不動産会社も増えており、業界全体でも徐々にデジタル化にシフトしていますね。電子契約の導入で、賃貸管理会社の業務はどのように変わっていくのか、改めて実務をベースに解説していきます。

従来の賃貸借契約の流れは、リスクとコストがいっぱい

 まず、現行制度の中で取り入れられている申込から成約までの流れをおさらいしてみましょう。内覧を終えた入居者が、仲介担当者に紙の申込書を送ります。仲介担当者は、申込書を物件の管理会社にFAXやメールで送信。そうしてたどり着いた申込書の入居者情報をもとに、管理会社が契約書の作成に入ります。

 現在、契約書の作成には、製本作業を含んでいます。つまり、用紙の印刷やホッチキス止め、ふせんチェックなど、紙ならではの業務が発生するわけです。そうして完成した契約書は、まず家主に渡ります。そこで家主の捺印を得た契約書は、今度は管理会社を経由して仲介会社へ。入居者が来店し、重要事項説明と同じタイミングで押印。こうして借り手・貸し手の双方の捺印を得た契約書が完成する。という流れです。

 随分と煩雑な作業ですが、ミスが発生するリスクを当然伴います。「製本の際に必要書類を1枚綴じ忘れていた」「捺印箇所に間違いがある」「家主の対応が遅れている」といったトラブルは日常茶飯事。こうしたケースにも丁寧に対応しなければ、入居者・仲介会社・オーナーに対する信用を失ってしまいます。

電子契約を導入すれば、紙の手間からは解放される

 それでは、電子契約を導入した際の流れを解説します。仲介会社を経て送られてきた申込書をもとに、電子契約書を作成します。製本の場合と違って、ホッチキス止めやふせんチェックなどは必要ありません。文字の打ち間違いなどは、PC上で手直しできるため、やり直し、といった事態にも陥らないでしょう。

 こうして作成された電子契約書は、家主へと送信されます。以前は郵送だったため、到着まで数日かかっていましたが、メールでの送信なら時間はかかりません。1日あれば、家主の確認と電子印、管理会社への返信まで完了。電子上で返送された契約書をもとに、仲介会社が入居者と契約を交わします。この時も電子での押印となるため、印鑑の押し忘れや入力漏れといったヒューマンエラーを防ぐことができます。

じゃあなぜ、賃貸の電子契約は広まらないの?

 電子契約を導入すると「業務効率が上がる」「郵送コストを削減できる」「契約スピードが上がる」といったメリットがあります。導入するべき、と感じる人も多いでしょう。ただ、現状では不動産会社のほとんどが、電子契約を導入できていません。いったい何故でしょう。そこで、取材した中で見えてきた、電子契約導入までの課題を3つ紹介します。

電子契約導入までの管理会社の課題

①家主への周知不足

②社内で浸透していない

③既存の流通システムに繋ぎこみができない

 大きく分けて、このようなハードルが生じています。こうした課題を解決するには、どうすれば良いでしょうか。また、管理会社はどうした対策を講じているでしょうか。

DX化を進めているのに業務が楽にならない。その訳は?

 そもそも、WEB申込から電子契約書の作成までを一気通貫で、完全オンラインで行うにはもう一つ、大きな課題があります。「申込」「契約」双方の業務を支える各システムの連動性についてです。

 現状、WEB申込サービスは、「AT BB」「ITANDI BB」といった業者間流通サイトと紐づけられているケースが一般的です。管理会社が仲介業者向けに空き物件を掲載している業者間流通サイトで、物件毎にWEB申込ボタンを設置すると、入居が付いた物件の即時削除や、FAXでの申込書のやり取りを減らすことができます。

 一方で、契約書の作成には、いい生活、日本情報クリエイト、ビジュアルリサーチ、ダンゴネットなどが提供する、物件情報を管理する基幹システムの、データベースが必要です。これは、電子、紙いずれの契約においても変わりません。しかし、基幹システムは、WEB申込のサービスを、現時点ではリリースしていない状況です。そのため、申込から契約書までひと繋ぎのシステムで進めるという理想を叶えることが困難なのです。

システムの連動性がカギ かえって負担が増えることも

 WEB申込を通じて業者間流通サイトで入力された入居者情報を基幹システムに入れ込むには、「RPAや手作業により再入力する業務」が、どうしても残ってしまうのです。こうした問題を解消するため、各システムのベンダーはAPI連携を猛スピードで進めています。

 ただし、管理会社にとって、各システムを導入する理由は十人十色です。「API連携している」という要素が、システムを選ぶ基準になることは、主流ではありません。例えば、「脱FAXを目指してWEB申込を導入したが、電子契約との繋ぎこみには関心がない」A不動産会社もいれば、「コロナ禍で非対面型仲介を実現するためにWEB申込を導入する」B不動産もいるのです。

 管理会社が選ぶサービスは、仲介業務に関わるものだけでも、WEB申込や基幹システムなど、用途がそれぞれ異なります。仮にAPI連携していないシステム同士を選ぶと、情報を受け渡すための手入力作業があらたに発生することもあります。むしろ、こうした情報受け渡し業務によりコストが増加することもあるのです。

 賃貸業界における、DXの落とし穴、とは、まさにこのことです。


 4月21日の「賃貸トレンドニュース」では、電子契約導入に積極的な管理会社3社をゲストに迎えます。自社内での課題や、解決策を取材します。