全国の賃貸不動産会社に聞いた 業務のデジタル化・実態について
~「不動産会社のデジタル研究会」後日レポート~

2022年08月29日

なかはたはるな(全国賃貸住宅新聞)

ツールの導入進むが、現場への浸透には課題も

 賃貸トレンド編集部が制作する配信番組「賃貸トレンドニュース」では、「不動産会社のデジタル研究会」と題し、2022年4~6月に、賃貸不動産会社におけるデジタル化の実態を特集しました。番組制作過程で全国の不動産会社に聞いた「業務に取り入れたデジタル施策」「デジタル推進の障壁」といった質問への回答を、まとめました。チャットツールやデータのクラウド管理を取り入れた企業では、社員、取引先、顧客との情報共有が円滑になった一方で、新しいシステムを浸透させることに苦労するところも多いようです。

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① スマホで撮影した画像を、取引先や家主と共有

「原状回復や修繕工事の写真を共有するために、ビジネスチャットツールを2018年に導入した。取引先の設備会社とのやり取りがスムーズになった」

ー Con Spirito(コンスピリート:東京都目黒区)長谷川悠介取締役

「定期巡回の結果を、家主に報告するためのアプリを導入した。スマートフォンのカメラで撮影した写真をそのまま使える。書面にまとめていた従来の報告書よりも、中身に目を通す家主が増えた」

ー ハウスプロメイン(兵庫県神戸市)営業統括部 森田光彦課長

② 退去連絡や入居申し込みを、WEBで

「退去連絡をwebで受け付けるようにした。24時間対応できるため、入居者にもメリットが大きい」

「連絡を受けてから退去するまでの期間が短くなった。郵送や電話でのタイムラグがなく、システムで日程を調整するため、入居者、退去立会をするスタッフのスケジュール調整をしやすくなったからだ」

ー 大宝商事(東京都町田市)大寶弘代表取締役社長、レンタックス(大阪市)石田英之管理営業部部長、他

「イタンジが提供する入居申込みのWEB受付システムと、アパマンショップが加盟店向けに提供する退去連絡のweb受付を、1年前に導入した。特に退去受付に関して、施工会社などの関係者と情報を一気に共有できるようになり、修繕や入居募集など、後工程の段取りを組みやすくなった。書面を郵送でやり取りするタイムラグもなくなり、タスク管理が容易になった」

ー ウィズコーポレーション(愛知県清須市)渡辺健太郎社長

〔担当記者の視点〕
 退去の受け付け業務について、従来は電話で受け付け、申込書類を送付してからスケジュールを調整していた企業も多く、日数を要するケースもあったようです。退去は毎年1〜3月に集中するため、専任スタッフを用意する企業もありました。web受付に変えると、入電の数が減少し、スケジュール調整も容易になり、管理業務の負担が減ったといいます。入居者にとっても、24時間webから退去を申し込めるのは、店舗の営業時間に連絡をしなければならないのに比べて、メリットは大きいでしょう。

③ 駐車場仲介を、システム導入により自動化

「駐車場代行契約システムを2021年12月から導入。従来は駐車場単体の契約においても店舗で対応していたが、オンラインで契約まで締結できるようになった。賃貸仲介スタッフが駐車場の契約業務に時間を使わなくて済むようになった」 

ー 天極(埼玉県川越市) 不動産テック担当部長 永田将己さん

「駐車場代行契約システムを導入し、事務作業を大幅に軽減できた。駐車場に設置してある看板からシステムサイトに直接アクセスする駐車場契約希望者が増えてきた」

ー 小菅不動産(神奈川県大和市)飯嶋実取締役

「会社のルールでは、駐車場代行契約システムを経由した契約は本社の売り上げになる。そのため、仲介店舗の売上が減るという懸念から反発もおきやすい」  

ー 東北大手管理会社A

〔担当記者の視点〕
 駐車場代行契約システムを駐車場利用希望者が使う場合、最初に、駐車場に設置した看板のQRコードや、ウェブサイトから申し込みます。その後は、すべての契約手続きをオンラインで済ませることができます。空き状況の確認もオンラインでできます。不動産会社にとっては、電話や来店対応といった駐車場契約に関わる業務を、限りなく自動化できます。駐車場代行契約システムの導入は今後も増えていきそうです。

④ IT重説を積極的に推進

「IT重説の実施率は全契約の7割弱。電子申込みは9割。方針として、積極的にIT重説を勧める指針を掲げており、高い数値になっている。保証契約とも連携できており、事務手続きを管理やしやすい」 

ー 小菅不動産(神奈川県大和市)飯嶋実取締役

「IT重説を専任で担当する社員を育成している。当初は店舗の仲介スタッフの間で、『重説は自分たちの仕事』という反発が起きたが、導入してみると店舗外にいても重説を実施できることが好感された。その後は浸透が早かった。現在はIT重説の実施率が5割を超えている」 

ー 東北大手管理会社A

「2020年にIT重説を導入。実施率は全契約の1割程度だ。契約に関わる業務の履歴が残るので、情報を把握しやすいのが良い。法人顧客の利用率が高い」 

ー 貝沼建設(愛知県名古屋市)宇山公一郎代表

▲東海圏を中心に不動産業を展開する貝沼建設は、現在管理戸数9142戸だ

〔担当記者の視点〕
 IT重説の実施率が高い企業では、案内時に契約者をIT重説に促すケースが多いようです。
また、対面、ITどちらでも対応できることを契約者に伝え、接客のバリエーションをアピールする企業もいました。IT重説に必要な設備を整えた企業が増えた一方で、従来のやり方を継続する企業も多く、コロナ禍をきっかけにオンラインへの対応度に開きが生まれたと感じます。

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① 社内スタッフ、社外関係者とのコミュニケーションが円滑に

「社員のスケジュールをホワイトボードの掲示板で確認していたが、ビジネスチャットツールで管理するようにした。社員間だけでなく、取引先の税理士やリフォーム会社とも連絡が取りやすくなりコミュニケーションがスムーズになった」 

ー  きめたハウジング(東京都町田市)木目田幸男社長  

「社内連絡を紙から電子書類へ移行した。その結果、社内便の本数が圧倒的に減った。紙でも電子でも内容に差はないので、電子の方が早く受け取れる分、スタッフの評判も良い」

ー 貝沼建設(愛知県名古屋市)宇山公一郎代表

「オンライン会議が増え、出張が減り、従来移動に要した時間を業務に充てられるようになった。各拠点のスタッフと対面で会う回数は減った。オンラインでコミュニケーションを取りやすい仕組み作りに力を入れた」 

ー 穴吹ハウジングサービス(香川県高松市)ブランド・広報室 川西一彰さん

▲北海道から沖縄まで事業所を持つ穴吹ハウジングサービスの仲介店舗ブランド名は「部屋ナビShop」だ

〔担当記者の視点〕
 チャットツールやオンライン会議については、連絡スピードの改善や、時短をメリットに上げる企業が多かったと感じます。複数の営業拠点を持つ企業では、拠点間のコミュニケーションが課題となり、改善に取り組むケースが見受けられました。

② 強化したい業務に人を割けるように

「社内に1人しかできる人がいない業務を無くすことを目標に、すべての業務マニュアルを作成して共有した。社員の負担を軽減できた」 

ー ウィズコーポレーション(愛知県清須市)渡辺健太郎社長

「ルーティン化した入力業務をある程度自動化し、事務作業が大幅に減った。その時間をオーナー営業など別作業に当てれるようになった」 

ー レンタックス(大阪市)管理営業部 石田英之部長

「解約数を分母、新規契約数を分子とする数値を、社内で「カバー率」と呼んでいる。これを、1以上に維持し続けることを、会社の目標に掲げた。数字への意識を高めるために、契約関連の情報を社員がいつでも把握できるよう、クラウドでデータを共有した。意識の高まりを確認することができた」

ー 大宝商事(東京都町田市)大寶弘代表取締役社長

〔担当記者の視点〕
 デジタル化を推進する際、システムを導入する前に従来の業務内容を見直す企業が多いと感じました。事務業務のマニュアル作成や自動化を進めた結果、社員を別業務に振り替えたケースもありました。また、データ共有の徹底が、社員の意識を変化させることにつながったと話す企業もいました。

③ 電話の入電数が減少

「問合せフォームをwebに設けた。入居者や客付け仲介店舗に対して、webから問合せるよう、周知を徹底した。その結果、電話数が減った」「外注コールセンターを導入。問合せ内容に応じて各担当者に振り分けることができるため、電話応対で業務を圧迫されることがなくなった」 

ー ハウスプロメイン(兵庫県神戸市)営業統括部 森田光彦課長、レンタックス(大阪市)管理営業部 石田英之部長、他

「入居申し込みをweb化したことで、家賃交渉をする人が減り、大家さんは喜んでいる。もともと、客付けだと交渉する人が多かった。webだと項目がそもそも存在しないので家賃交渉する人がいない」

ー 大宝商事(東京都町田市)大寶弘代表取締役社長

④ 採用募集に対する応募数が激増 

「採用の応募数が激増した。理由は、フルフレックスの導入やテレワーク可能など働き方改革を行ったことが考えられる。人材不足や不動産業界から人材流出することを防ぐことができるのではと思う」

ー Con Spirito(コンスピリート:東京都目黒区)長谷川悠介取締役

「ペーパーレスを早期に完了しているため、在宅ワークが可能。営業以外の社員の8割は、完全在宅で業務にあたっている。在宅ワークが可能になってから求人を出すと100倍の応募数になった。離職率も減り、採用・人事業務への変化は大きい」 

ー ランドトラスト(千葉県千葉市)プロダクト部 徳雅俊部長

「エンジニアなど一部職種を完全在宅ワーク可能にしたことで、完全在宅可能で人材募集が行えるように。居住エリアを問わないので、全国から優秀な人材が集まるようになった」 

ー ランドネット(東京都豊島区)榮章博代表

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① 社員の理解を得て、実務に浸透させることに苦労

「新しいツールを社内に浸透させるのが大変。新ツールの説明会を複数回行い、理解が進み、浸透するよう取り組んでいる。営業部門向け、管理部門向けなど、ひとつの部署につき、3回程度行っている」 

ー リベスト(東京都武蔵野市)荒井康友店長代理

「システムに対するリテラシーの差が激しく、社員でも、顧客でも、苦手な人にどう対応するかが鍵となっている。社員に対しては新システムのメリットを丁寧に伝え、導入を前向きにとらえてもらうようにしている」 

ー 穴吹ハウジングサービス(香川県高松市)西日本支社 部屋ナビ事業統括 三好徹さん

「契約センターと店舗の連携が最初はうまくいかず、電話などアナログ的な手法で説明や手順を踏んでいたが、1年間やってきてようやく慣れてきた。最初のオペレーションには苦戦した」  

ー 天極(埼玉県川越市)不動産テック担当部長 永田将己さん

「新しいツールに、後ろ向きな人はいる。業務フローの変化を望まないケースがある。システムの導入により、実務がどう変わるのか、導入する前に説明を行いメリットを伝えている」 

ー 小菅不動産(神奈川県大和市)飯嶋実取締役

▲神奈川県大和市を中心に地域密着型営業を徹底する小菅不動産

〔担当記者の視点〕
 手慣れた業務手順が変化することへの不安から、新システムに反発が起きることは珍しくないようです。在籍年数が長い社員への説明に苦労するという話もありました。一方で、業務にあたる社員の理解を得られないと、不満に繋がるため、複数回説明を行い、会社の方針と併せて浸透させるケースが多くありました。

② 既存システム、他社システムとの連携が難しい 

「現在使用している基幹システムと連動しないシステムが多く、導入のネックになっている。興味があるシステムは多いが、断念するケースは少なくない」  

ー ウィズコーポレーション(愛知県清須市)渡辺健太郎代表取締役社長

「取引先の修繕業者や工事会社が、FAXでしか注文を受け付けないこと多く、デジタル化を進めにくい。進捗管理もアナログになってしまう」  

ー 東北大手管理会社A

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① 電子契約・書類の電子化

「パートナー企業など、法人向けの書類や契約書を全て電子化したい。原状回復工事の委託先が15社以上あるが、請求書のやり取りが大変」

「電子申込み・電子契約は、導入するなら同時に行う予定。しかし、従来のアナログ対応に、電子対応の業務が増え、結果的に業務量が増えてしまうだけでは困る」

「ヒューマンエラーを起こさないために、システムでエラーチェック機能がある電子契約の導入を進めたい」

「電子申込みの導入を検討しているが、ローカルエリアでは都市部と比べて需要が低いように感じる」

② オーナーアプリ

「見積もりや送金明細を紙で郵送するのではなく、デジタル化したい。確定申告時期は再発行の依頼が多く、そのたびに印刷して郵送しており、雑務が増える」

「オーナーに所有物件に対する興味関心を持ってもらい、経営状況を把握してもらいたい」

「オーナーから導入希望があり、コミュニケーションも取れるアプリを探しているが、情報発信のみでチャット機能がないものが多い」

「地元オーナーと投資家オーナーではアプローチ方法やコミュニケーションの方法が異なる。属性により異なるコミュニケーションを選べるツールが欲しい」

「送金明細のデジタル化を検討しているが、全てのオーナーが受け入れるわけではない。郵送とデジタル対応を両方行う期間が長くなり、業務が増えてしまう懸念がある」

③ その他

「アバターオフィスに興味がある。各拠点を繋ぐコミュニケーションツールとして運用できないだろうか」

「入居者アプリの導入を考えているが、担当社員は入居者とのチャット機能をカットしたいようだ。現在設備不良の連絡を、外部のコールセンターに委託しているが、チャット機能を実装したら、社員に負担がかかる懸念がある」

〔担当記者の総括〕
 商圏、事業内容、企業方針によって、デジタル推進の動きや目的は異なります。「不動産DX」と一口に言っても、対社内、対入居者、対オーナー、対関連企業などアプローチする相手は多岐に渡ります。どこから取り組むか、目標をどこに設定するのか、によって、動き方は異なると実感しました。
 また、導入の候補となるシステムが複数ある場合、社員からの意見や、すでに利用している他社からの意見を取り入れて吟味するなど、慎重に進める企業が多かったです。デジタル推進をきっかけに、業務内容の見直しを図るだけでなく、会社の成長機会につなげようとする企業もあり、新しい取り組みにどう向き合うかが「不動産DX」の鍵かもしれません。

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【取材協力企業一覧】きめたハウジング(東京都町田市)、リベスト(東京都武蔵野市)、Con Spirito(コンスピリート:東京都目黒区)、天極(埼玉県川越市)、ハウスプロメイン(兵庫県神戸市)、穴吹ハウジングサービス(香川県高松市)、小菅不動産(神奈川県大和市)、ウィズコーポレーション(愛知県清須市)、貝沼建設(愛知県名古屋市)、ランドトラスト(千葉市)、ハウジングロビー(長崎市)、ランドネット(東京都豊島区)、レンタックス(大阪市)、大宝商事(東京都町田市)、絹川商事(石川県野々市市)他※順不同